やさしさの連鎖

昔「逃走中」という鬼ごっこをパロディ化したテレビ番組があり(今もある?)、番組内でのタレントのある行為が大炎上となった事件を鮮明に覚えています。番組の構成は、時間経過とともに賞金が加算されていき、鬼から最後まで逃げ切れば賞金を獲得できるというもの。また、途中棄権してもその時点の金額がもらえます。

 

途中棄権する出演者は当時ほとんどいない状況でしたが、2012年にお笑いコンビのドランクドラゴン鈴木さん、2015年にダンスグループE-GirlsのAmiさんがそれぞれ棄権して賞金を獲得しました。ここれに対して猛烈な批判が巻き起こり、鈴木さんに至ってはTwitterアカウントを停止する事態にまでなりました。

 

当時の視聴者の思いは、“たとえ失敗したとしても、最後まで闘い続けることを視聴者は期待している”“お金儲け優先で見ていて面白くない”といったものです。

 

一方、今年、これとは対照的な番組がありました。「クイズ!小学五年生より賢いの?」というもので、クイズの正解毎に賞金額が上がり、こちらも途中棄権で賞金が獲得できる仕組みです。

 

その中で、お笑い芸人のフルーツポンチの亘さんとクールポコの小野まじめさんが、本業である芸人としての収入がコロナ禍で激減する中、家族を養うためという理由で、途中棄権して賞金を獲得するという選択をします。

 

この決断に対して、ネット上ではやさしさや賞賛のコメントで溢れました。

 

選択の背景に家族がいるという、番組演出上のエクスキューズの有無は大きいでしょう。ただ、それにしてもこれほどまでに世の中が真逆の反応を示すことに、宗一郎自身とても驚きました。

 

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変化の要因として、宗一郎はやっぱりコロナ禍の影響は外せないと感じます。私が生まれてから、数々の事件や事故、不幸な出来ことはたくさんありましたが、これほど日本中が(否、世界中が)同じ苦しみを共有する経験はこれまでありませんでした。

 

たとえ、自分自身が苦しい立場ではなくても、家族を亡くした人だったり、友人が経済的に苦境に立たされたりなど、限りなく近い存在が苦しんでいる状況など、ほとんどの人がなにかしらコロナ禍のネガティブな影響を受けてきたでしょう。

 

そして、困難な経験を共有しているからこそ、“共感の思い”も強化されるのだと思います。

 

芸人のサンドウィッチマンは、2人とも宮城県仙台市出身で、東日本大震災当時は東北地方でライブ活動をしていました。その運命を背負って、今日まで“東北魂”を合言葉に、東北復興に向けた活動を地道に続けています。

 

東北地方を思いながら活動している姿は、そしてテレビで活躍する姿は、被災者に人たちにとって、これほど心強く、自分ごとのように共感できる存在はいないでしょう。それは普通のファン以上に、特別な結びつきがあるものだと思います。

 

そして、それが好きな芸人ランキング3年連続1位という結果にも結びついている。公表はされていませんが、おそらく地域別得票数では、東北地方がダントツでしょう。(もちろん、芸人としてのスキルの高さだとか人柄の良さがあるからこそですが。)

 

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「クイズ!小学五年生より賢いの?」で生まれた温かい賞賛の声は、出演者本人の選択に対してだけでなく、出演者を支援する機会をつくった番組制作サイドへの感謝のようにも感じます。

 

やさしさの連鎖って、ネガティブな状況からでも、いや、そういう状況だからこそ生まれやすいのかもしれません。

 

『苦しい経験をする(コロナ禍)→同じ境遇の人に共感する(クイズ番組の出演者)→自分のことのようの嬉しい(賞金獲得)⇒ポジティブな行動(ネットでの賞賛コメントなど)』

 

人間生きていれば、辛いことはいつだって、何度だってあるでしょう。でも、そのできごとのあとが大切で、その経験をふまえてどういう社会や自分をつくっていくか。

 

コロナ禍という世界中が共有する困難を経たあとに、世界中のやさしさの連鎖がつながって、もっともと生きやすい社会になってほしい。そんなことを思います。

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