コロナ禍で燃え尽き症候群

アメリカで“大退職時代”がやってきたという報道がありました。

米国では現在、8月には430万人、9月には440万人と、記録的な数の労働者が仕事を辞めているそうです。年間で換算すると、およそ3人に1人が退職しており、すごい数です。(ちなみに、日本は9人に1人くらいです。)

 

退職理由の第1位は「コロナ禍を経験して、燃え尽きたと感じた」というものです。米国では250万人近くの人が燃え尽き症候群を経験しており、2020年5月に比べて約3倍の増加ペースとなっています。

 

そもそも燃え尽き症候群ってどんな病気なんでしょう?

 

主な症状は、

・個人的達成感の低下

仕事へのやりがいを感じられなくなり、周囲だけでなく自分自身でも業務の質の低下が感じられる。

(こまごまと気配りをすることが面倒、仕事の結果はどうでもよいと思う)

・脱人格化

相手の人格を無視し、思いやりのない態度や仕事上の関係として割り切った行動傾向です。

(同僚や顧客となにも話したくない、顔も見たくない)

 

このような気持ちの状態が続きます。

 

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宗一郎は、コロナ禍で燃え尽き症候群が増えるのも必然なんだろうなと思います。

 

その理由のひとつは、過剰なストレスです。

ストレスはよくコップの水に例えられます。一つ一つのストレスの水の量は微量でも、さまざまな要因が重なると、水はコップから溢れてしまう。

 

コロナ禍以前から、仕事上のストレス(長時間労働や厳しいノルマ、転居を伴う転勤など)だけでなく、子どもの世話や親の介護、結婚・出産といったポジティブな変化も含めて、ストレスフルな人は多く、社会問題化していました。

 

そこに、コロナ禍によるロックダウン、テレワーク、急激な景気回復といった新たなストレスが加われば、コップの許容量を超える人が急増するのは、想像に難くありません。

 

もうひとつの要因は、価値観の変化。

多くの人が長い期間にわたるリモートワークを経験し、プライベートの時間が増す・人間関係のわずらわしさから解放されるといったメリットを体感した結果、“働き方ってひとつじゃないよね”とか、“オフィスに戻りたくない”と考える人が出てきた。出社とか、会議とか、飲み会とか、当たり前だと思っていたことが、無駄なんじゃない?って思い始めた。

 

また、経済活動の制限によって貯蓄が増え、金銭的に余裕が持てるようになったことも一因でしょう。

 

これまでの仕事が、まったく異なるやり方でも完結してしまう経験をしてしまったら、働く意味だとか、これからの生き方なんてことを真剣に考えてしまいます。宗一郎もその一人です。

 

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退職率の急激な上昇に危機感をもったアメリカの企業では、“週4日勤務”や、“退職金拠出の拡大”といった施策を検討しているようです。確かに、週4日勤務や報酬のアップは労働者にとって魅力的であり、一定の引き留め効果はあるでしょう。

 

けれど、これについて、宗一郎は限界もあるだろうとも感じます。

 

仮に週4日勤務が定着したとしても、その先は週3日勤務の是非を問う時代がきっと来るでしょう。そして、行きつく先には、週0日勤務…? さすがに無理があります。報酬も同じで、いつかは頭打ちになるでしょう。

 

もっともこれらの施策は、ストレスに対する効果は限定的だし、変わってしまった価値観に応えるものにはなっていません。

 

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強制的かつ突発的に普及したリモートワークよって、通勤がいらなくなったり、会議が効率的になったり、いろんな面で効率化が進みました。

 

一方で、対面でのコミュニケーションが遮断されたことにより、なにげない挨拶や雑談といったものも姿を消しました。また、その中には、ありがとうと感謝されることだとか、成果を労われることも含まれていたでしょう。

 

コロナ禍によって、働き方の変化があまりにも劇的かつ突然であったため、そのインパクトから、多くの人が“自分の時間が増えた”“自分の人間関係が楽になった”といったような、“利己的”な変化を歓迎する価値観に変わってしまった気がします。

 

けれど、仕事の大原則って、「誰かに喜んでもらいたい」とか、「社会に貢献したい」といった“利他的”な動機から発出するものです。上司や同僚の日々のなにげない声掛けが、会社の帰属意識だとか、仕事への意欲を高めることはよくある話です。

 

リモートワークがいくら発達しようと、(近い将来)メタバースが普及しようと、“仕事は利他的であること”を啓発し続ける取り組み(マネジメントやコミュニケーション)が企業に求められるんだと思います。

 

これは日本人だって、外国人だって同じでしょう。人間、報酬とか労働環境だけでは働き続けられない。そんなに簡単には割り切れない。

 

燃え尽き症候群になってしまう人は、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまうといいます。そんな状況に陥る前に、仕事の目的は、“利己的ではなく、利他的であること”を思い出させてくれる上司や職場環境があれば、もうひと踏ん張りできる人もいるんじゃないでしょうか。

 

また、この病気は、ひたむきに他人との深い関わりを保ちながら仕事をするという特性の人が発症しやすいそうです。利他的に仕事に向き合う人の方が、一旦その梯子が外れると、反動も大きいということなんでしょう。

 

新しい生活様式であっても、感謝だとか情緒だとか、そういった当たり前で基本的な人間の感性をケアできる企業がこれから生き残っていくでしょう。

 

そんな会社に巡り会えれば、幸運といえそうです。

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